HSCに必要なのは「早くしなさい」ではなく「慌てなくて大丈夫」の言葉掛け

杉本景子さん

 「大きな声の先生が怖い」「周囲に気をつかいすぎて発言できない」「泣いているクラスメイトを見ているだけでつらい」。多くの子どもには何ともないことでも、その刺激が積み重なることで、不安になったり疲弊したりする子どもたちがいます。「Highly Sensitive Child=HSC」です。HSCは、大人から「我慢が足りない」「消極的」と評価されがちで、学校生活で気苦労を抱えることも多くあります。しかし、公認心理師の杉本景子さんは、「HSCは、ものごとの変化によく気付き、粘り強く取り組み、社会を動かす力を秘めている。そのまま伸ばしてほしい」と、保護者、そして教師に熱心に説きます。HSCとは、どのような存在で、どのように接するべきなのかをうかがいました。

 

「HSC」とは、どんな子ともなのですか?


 Highly Sensitive Childは、直訳すると「高度に敏感な子ども」という意味です。大人の場合は、Highly Sensitive Person(HSP)といいます。この概念はアメリカの心理学者エレイン・N・アーロン博士が1996年に提唱したものです。私がHSP(HSC)について説明するときは、「深慮深く、人の気持ちや刺激に敏感な気質の人たち」と言います。



具体的にどんな気質がHSCに当てはまるのですか?

 「DOES」という次の4つの判断軸に当てはまるかどうかで見極めることができます。すべて当てはまらなければHSCではありません。


D(Depth of processing)=何事も深慮深く考えて処理する

ものごとを深く考えたり、感じたりする。大人びた言葉づかいや本質的な深い質問をして、大人を驚かせることもある。

例:よく調べて提案する、他人への影響を気にする、誰も見てなくてもルールを守るなどモラルを内面化している、など

 
O(being easily Overstimulated)=過剰に刺激を受けやすい(感覚面での不快感がつのりやすい)

HSCは五感がとても敏感である。 

例:音・光・におい・味・寒さ・空腹・のどの渇き・痛みなどに敏感、合わない靴やチクチクする服などが苦手、など


・E (being easily Emotionally reactive generally and having high Empathy in particular)=感情の反応が強く特に共感力が高い

他人の感情の動きに敏感。共感力が高く、感情移入しやすいという特徴がある。

例:涙もろい、怒られている人を見るのがつらい、喜んでいる人を見ると嬉しい、など


S (being aware of Subtle Stimuli)=ささいな刺激を察知する(思考や感情のレベルが高いことによる)

刺激や変化に敏感で、観察力や洞察力にすぐれている。

例:ものの配置の変化にすぐ気づく、人の外見や声のトーンの小さな変化にすぐ気づく、励ましやほかの人が望むことを察知する、芸術作品に対して観察力が鋭い、など



どれくらいの割合で存在するのですか?

 男女問わず15~20%ほどいます。人口の5人に1人、35人学級ならば7人いる計算ですので、これを読んでいる方の中にも、「DOES」の気質に当てはまるという人は少なくないのではないでしょうか。 

 動物にもHSCのような気質をもつ個体が同じくらいの割合で存在するとされています。アーロン博士は、慎重な気質は、種の存続に役立つこともあるため、これほどの割合で存在しているのではないかと指摘しています。



HSCは、「治療」できるものなのでしょうか? 

 いいえ。大前提として、HSCは疾病や障害などではなく、「気質」の一つです。従って、医師が診断したりするものではありません。後天的なものではなく、生まれもったものですので、基本的には大人になっても変わることはありません。つまりHSCが大人になれば、現在のHSPはかつてHSCであったということです。


ということは、生涯その「繊細さ」に苦しまなくてはいけないのでしょうか?

 この答えも「No」です。確かにHSCは強い刺激に敏感で、すぐに動揺したり、変化が苦手で消極的に見えたりもします。しかし、これは多数派である非HSCを基準にした一方的なものの見方です。

 刺激(ストレス)に関して「ヤーキーズ:ドットソンの法則という実験があります。この実験では、黒と白が判別できるように訓練したネズミに電気ショックを与え、そのショックの強さで正答率がどう変わるかを調べました。すると、「電気ショックが強くなるほど、正答率が高くなるが、最適な強さ(個体差がある)以上になると、正答率が低くなる」という結果が得られました。つまり、刺激が適度な強さであればネズミの学習は強化されますが、強すぎたり、弱すぎたりすると、学習能力が低下するとういうことが分かったのです。

 この法則を図式化して、HSCを当てはめてみます。非HSCには適度な範囲の刺激でも、HSCには強すぎるのでパフォーマンスは低下します。一方、非HSCにとってはベストパフォーマンスが発揮できるようになります。

 もし、大人が子どもに「もっと早くしなさい」というストレスを強める声掛けをしたとします。相手が非HSCならパフォーマンスは上がりますが、HSCは下がるでしょう。一方、「慌てなくて大丈夫だよ」とストレスを和らげる声掛けをしたら、結果は逆になるはずです。つまり、HSCは、活躍できる環境が非HSCと違うだけなのです。


しかし、非HSCが多数派の社会では、HSCが活躍できる場は少なそうですが…。

 HSCが集団や組織で活躍できないかといえば、まったくそんなことはありません。むしろ、敏感でない人の中にもHSCやHSPと相性がよい人がいます。その代表は正義感の強い人や社会貢献思考の人たちです。このような人たちは、細やかさという点ではHSCやHSPが慎重になって行動に移せないことでも、いとも簡単に実行することができます。それが、例え失敗に終わったとしても、今度は敏感な人たちがじっくりと考察することで、よりよい解決策を生み出すこともできます。

 つまり、HSCと相性のよい非HSCが一緒にものごとに取り組むと「最強」なのです。車の両輪のように、HSCと非HSCの力はどちらでも必要です。これは学級でも会社でも、どんな組織でも同じことでしょう。


具体的に、教師はHSCがいるクラスでは、どんなことを心掛けるべきですか?

 HSCは、怒鳴る教師がいると緊張で普段できることができなくなります。また、先生の言うことを聞かない子どもを以ているだけでもヒヤヒヤしたり、叱られて落ち込んでいる子どもを見ているだけで悲しくなったりします。

 一方で、誰かが失敗しても教師やクラスメイトがフォローする思いやりあふれるクラスや、皆で協力し合うクラスでは、HSCは自分の役割をきっちり果たし、ときにはリーダーシップも発揮します。つまり、クラスに「支持的風土」を醸成できれば、HSCは全体の手本を示す存在となり、教師の学習経営を支える存在にもなるはずです。


HSCについて理解は、学校現場では広まっているのでしょうか?

 残念ながら、まだまだという状況です。私の元には、わが子をHSCだと気付き、先生や学校に相談したけど分かってもらえないと悩む保護者もよくやってきます。HSCをそのまま伸ばせば、深慮深いリーダーや、患者の変化によく気付く優秀な医師、粘り強く研究に取り組む科学者にもなれます。保護者や教育関係者に、このことを知ってもらいたいと、『一生幸せなHSCの育て方』(時事通信社刊)という本を書きましたので、ぜひ手にとって頂ければと思います。





杉本景子(すぎもと・けいこ)
1978年生まれ。公認心理師・看護師・保護司。NPO法人千葉こども家庭支援センター理事長。千葉市スクールメディカルサポート・コーディネーター。千葉市でカウンセラーとして活動しつつ、不登校児童生徒をサポートするフリースクール「ペガサス」を運営している。学校がつらいと感じる子どもの中にはHSCが少なくないということに気づき、現在はHSCとその保護者へのカウンセリングや、教育委員会・学校現場にHSCを広めるための啓発活動を行っている。

*『月刊教員養成セミナー 2021年11月号』「教育とは’s語り」より
「教育とは?」を考えているトップランナーたちの「問わず語り」インタビューです。様々な分野の第一線で活躍している人たちに、教育について思うこと、ご自身の経験などをつれづれに語ってもらいました。

 

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