誰も指摘してこなかった教育界の大問題に切り込む!



誰も指摘してこなかった教育界の大問題に切り込む!
―『非正規教員の研究―「使い捨てられる教師たち」の知られざる実態』(佐藤明彦)


 教員には、正規教員だけでなく、非正規教員たちがいることをご存じだろうか。

「それって産休や育休のときに来る先生でしょ?」


「授業だけする非常勤の先生でしょ」


 自らの経験に照らして、こう答える人もいるかもしれない。しかし、これら産休・育休代替や非常勤講師以外に、正規教員と同じようにクラス担任をもち、授業や校務の分担もこなす非正規教員がいる。


 彼らは、「臨時的任用教員(臨任)」と呼ばれ、一年契約という不安定な身分で働いている。多くは正規教員を目指しているが、授業だけでなく部活の顧問も担当する多忙な毎日を送ることで、教員採用試験になかなか合格できず、苦しむ人も少なくない。


 

 民間企業の場合、2013年の改正労働契約法により、5年間務めた有期契約の非正規社員は、6年目からは「無期雇用」に切り替える仕組みが定められた。地方公務員の非正規職員も、2017年の地方公務員法の改正で同様の「厳格化」がはかられた。その結果、数字の上では2016年には64万3000人いた非正規職員は2020年には7万人弱まで激減した。

 ところが、教員の場合は、地方公務員であるにも関わらず、こうした法の網からこぼれ落ちている。それどころか、議論の俎上にも乗らず、何年も非正規の身分に置かれるという不合理が、堂々とまかり通っている。

 しかも、文部科学省は2012年以降、非正規教員の人数の統計をとっておらず、実態はブラックボックスの中なのだ。

 

 こうした状況に疑問を抱いた著者は、非正規教員の実態を調べ始め、その人数は年々増え続け、現在では何と教員全体の2割にも上るという実態を突き止める。そして、教員の多忙化や人材不足といった昨今話題の教育課題も、突き詰めると非正規教員の問題が起点となっていると喝破する。

 教育界で、ひそかに「まずいのではないか」とささやかれながら、誰も深く掘り下げてこなかった非正規教員問題。本書を通じ、日本社会が学校教育の維持・安定に向けて動き出すことを切望するという著者の叫び声が、一人でも多くの人に届くことを願う。

 

■著者プロフィール

教育ジャーナリスト。1972 年滋賀県出身。東北大学教育学部卒。大手出版社勤務を経てフリーの記者となり、2002年に編集プロダクション・株式会社コンテクストを設立。教育書の企画・編集に携わる傍ら、自身は教育分野の専門誌等に記事を寄稿。教員採用試験対策講座「ぷらすわん研修会」の事務局長、『月刊教員養成セミナー』元編集長。著書に『GIGA スクール・マネジメント―「ふつうの先生」がICTを「当たり前」に使う最先端自治体のやり方ぜんぶ見た。』『教育委員会が本気出したらスゴかった。―コロナ禍に2週間でオンライン授業を実現した熊本市の奇跡』『職業としての教師』(いずれも時事通信社)。

 

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