2年の任期の残された時間で成し遂げたいこと



2年の任期の残された時間で成し遂げたいこと
日本SF作家クラブ第20代会長・池澤春菜さんインタビュー

 

『大人だって読みたい!少女小説ガイド』でコラムを執筆している池澤春菜さん。池澤さんは、声優や書評、エッセイの分野で活躍する一方、2020年9月に日本SF作家クラブの第20代会長に就任した。それから1年余り内外のSFイベントに参加して日本のSFを広めたり、「日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト」(さなコンなどを創設して創作活動を盛り上げたりと、外から見える動きを見せてクラブの存在感を高めてきた。自身も『三体』で知られる中国のSF作家、劉慈欣の童話『火守』を21年12月に翻訳・出版し、次はオリジナル小説の執筆に意欲を見せる。コロナ禍で萎縮しがちな雰囲気を吹き飛ばして進む池澤さんに、今のSF界で起こっていることや、残り半年強任期中に成し遂げたいことを聞いた。

 

―――会長に就いてからこれまでの活動を振り返っていかがですか。

 最初にやろうと思っていたことの半分も出来ていない思っています。今のクラブのマンパワーでは、すぐに超えられないことがたくさんありました。でも、どこまで飛ばなくてはいけないかも見えてきました。そこに向かって飛び立つための経路を作るのが私の役割。残る任期で準備をしていきます。

 

―――半分といっても、小説とマンガで「さなコン」を創設したりイベントを通し発信したりと多くのことをやって来られたと思います。12月にはワシントンDCで開催された第79回世界SF大会にも参加されたとか。

 できれば現地に行きたかったのですが、自主隔離の問題があるのでオンラインで出席しました。東京と14時間の時差があって、夜中の1時から出て次の日の12時から出てといった感じで、ずっと英語でやっていたので頭が煮えて寝ようと思っても寝られなくなりました。

 

―――大会では最近話題となっている「SFプロトタイピング」(SF的な発想を事業戦略や製品開発に活用すること)について話しされたそうですね。

 SFプロトタイピングとは何かを話し、もたらす利点や危険性話しました。SFプロトタイピングは、それを振ることで魔法的な効果が得られる魔法の杖ではありません。あくまで道具のひとつで、用いる人によってよい方にも悪い方にも転んでします。たとえば軍事利用とか。それをどう防いだらよいのか答えはまだ出ていません。私としては、誠実さとともに歩んでいくしかないのではないか、といった答えしかできませんでした。

 

―――ソニーや小岩井乳業がSFプロトタイピングに取り組んでいますし、清水建設と作家クラブがコラボしてSFで近未来を想像する取り組みも行われています。SF作家はどのような役割を果たしているのでしょう。

 SF作家は予知能力を持っていませんし、新しい技術を開発できる訳でもありませんが、アイデアを組み合わせて物語の形に作り直すことは得意なんです。物語は膨らむ力、浸透して内から理解をさせる力を持っています。それが新しい側面に光を当てて、新しい発想につながります。

 

―――浸透しやすいということは誤った思想を広めることにもつながりますね。

 陰謀論のようなものですね。最近思い始めたのは、私たちが頭で理解するには世界も宇宙も大きくて複雑で、それを理解できる形に落とし込もうとして、陰謀論のような物語にしているのではないかということです。そこでSFが、きちんと語り直して世界の認識としてつなぐことができるのではないかと思います。

 

―――日本SF作家クラブが編纂した『ポストコロナのSF』(早川書房刊)はまさに、コロナ禍という状況を語り直し、未来を想像させるアンソロジーでした。

 前会長の林譲治さんの提案でやってみようということになりました。収められている19編は語られていることが全部違います。来年の話もあれば、樋口恭介さんのように先まで飛ばした話(「愛の夢」)、ぬれタオルでしばきあう話(天沢時生「ドストピア」)もありました。先の見えない世の中も、物語に一度取り込むことで想定できるようになり、対応する力が身につきます。SFとは訳が分からない、想像力が届かないものを私たちの手の届く範囲に持ってきて備えさせてくれる力があるのです。

 



―――『ポストコロナのSF』は、『大奥』(よしながふみ、白泉社)、『暗闇にレンズ』(高山羽根子、東京創元社)、TVアニメ『ゴジラ
SP<シンギュラポイント>』(TVアニメ、東宝)、『七十四秒の旋律と孤独』(久永実木彦、東京創元社)、『まぜるな危険』(高野文緒、早川書房)と共に第42回日本SF大賞候補になりました。マンガもアニメも入った多彩な候補作です。

 SFの形がこれだけ多様化する中で、小説だけに限定してしまうのもカッコ悪いと私は思っています。世の中の動向をキャッチアップしていける賞でありたい考えています。皆さんが思っているほどSFは理屈ではないんだよということが広まって欲しいですね。ただSFとしては、どれもセンス・オブ・ワンダーに満ちた素晴らしい作品だと思います

 

―――『ゴジラSP<シンギュラポイント>』は円城塔さんが脚本ですからね。決定は2月ですが、贈賞式はやはり無理そうですか?

 そうですね。ただ、4月に代官山 蔦屋書店で2日間にわたってSFのイベントを開催します。「SFカーニバル」というSFのイベントを開催します。今の情勢の中でできることを新しく考え、書店を巻き込んで書く人、読む人、作る人、売る人をつなげるイベントを企画しました。トークショーを開いたり、大賞受賞者だけでなく自著がある方ならどなたでも参加できるサイン会を行ったりします。私が会長としてできるのは、外側と内側とをつなぐこと。内向きだったものを外に向かって発信し、理解してもらうことだと思っています。このイベントも私らしい動きだと思っています

 

――残る任期を終えたら何をしたいですか?

 虚脱状態になりそうで怖いので、次の目標をみつけて人生を有意義に過ごさないといけないと思っています。この2年間でしゃべなくなってしまった英語をブラッシュアップするか、スペイン語をもう1に上げたいですね。スペイン語圏には面白いSFがいっぱいあるんですが、あまり翻訳されてません。スペイン語SFの翻訳ができたら良いですね。

 

―――堺三保監督の短編SF映画「オービタル・クリスマス」のノベライズで“作家デビュー”も果たしましたが、次の予定は?

 『ポストコロナのSF』に続く作家クラブ編のアンソロジーを早川書房と企画しています。ジョージ・オーウェルの『1984』から100年後となる2084年がテーマで、そこに私も短編を書きます。公募にプロットを出したら名前を隠した状態で選んでもらえました。翻訳も昨年末に『宝島』のロバート・ルイス・スティーブンソンが書いた詩集『子供の詩の庭』の翻訳(池澤夏樹と共訳、毎日新聞出版)が出ました。あと春から河出書房新社でフェミニズムSFのアンソロジーを橋本輝幸さんと共同編集で出します

 

―――活躍を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

 

(文/タニグチリウイチ)


  
*2021年12月に刊行をされた、池澤春菜さん翻訳、中国のSF作家、劉慈欣の童話『火守』(KADOKAWA)

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