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「1億総メディア社会」の今、求められるスキルとは?
「1億総メディア社会」の今、求められるスキルとは?
『メディアリテラシー 吟味思考(クリティカルシンキング)を育む』
誰もがSNSで自由に情報発信できる「1億総メディア社会」。
情報が洪水のように押し寄せ、ぎすぎすしがちな時代を生きるわれわれにとって、情報を吟味して正しく理解する手法「メディアリテラシー」を身に付けることが喫緊の課題となっている。
本書では、編著者である坂本旬・法政大学教授と山脇岳志・スマートニュース メディア研究所 研究主幹(元朝日新聞編集委員)とともに、これまで分断されてきたアカデミアとジャーナリズムの専門家、先進的な取り組みを続けてきた学校教員など、30人超もの執筆者がそれぞれの立場と視点から、メディアリテラシーとその根幹を成すクリティカルシンキングについて論じている。
本書のサブタイトルにもなっている「クリティカルシンキング」という言葉は、通常「批判的思考(力)」と訳されることが多い。だが、そのことによって、相手を否定・非難することのように思われたり、論争的であると誤解されたりして、言葉そのものが使いづらいという声があった。
そこで本書では、クリティカルシンキングの本質は「吟味」することにあると考え(「クリティカル」は、見分ける・判断するという意味のギリシャ語「kritikos」が語源であるといわれる)、「吟味思考」という言葉をあえてサブタイトルに採用した。そして、クリティカルシンキング(=吟味思考)は、鍛えれば伸ばすことができる「スキル」なのだと、編著者の山脇は述べている。
≪新型コロナウイルス感染症の拡大では、一部の地域で医療崩壊といってよい状況にまで追い込まれた。医療体制や危機管理の問題があぶり出されたが、問題の原因は複雑であり、そこに至るまでの長い歴史的な経緯もある。誰かを、あるいは何かの組織を「非難」したくなるのは人間としての自然な気持ちではあるが、それだけでは問題は解決しない。あらゆる事象の解決に、「魔法の杖」はないのである。
複雑な問題に取り組み、解決策を見つけていくには、まず、事象が複雑であることを理解し、複雑な状況に応じた、複合的な対策を講じる必要がある。
これからも、日本の課題は増えることはあっても減ることはないだろう。この複雑で難しい状況に対応するには、政府にも民間にも、多様な立場を理解し、さまざまな角度から物事を考えられる人を育てる必要がある。教育現場において、クリティカルシンキングの養成は、ますます求められていくに違いない。≫
(本書「はじめに」より)
本書が、日本全体のメディアリテラシー教育の底上げに寄与し、「多様で寛容な社会」に向けての一助となることを期待したい。
■編著者プロフィール
坂本旬(さかもと・じゅん)
法政大学キャリアデザイン学部教授
1959 年大阪府出身。東京都立大学大学院教育学専攻博士課程単位取得満期退学。専門はメディア情報教育学、図書館情報学。1996 年より法政大学教員。ユネスコのメディア情報リテラシー・プログラムの普及をめざすアジア太平洋メディア情報リテラシー教育センターおよび福島ESDコンソーシアム代表。著書に『デジタルキッズ ネット社会の子育て』(旬報社)、『メディア情報教育学』(法政大学出版局)、編著に『メディアリテラシーを学ぶ』(大月書店)、『デジタル・シティズンシップ コンピュータ1 人1 台時代の善き使い手をめざす学び』(大月書店)、『デジタル・シティズンシップ教育の挑戦』(アドバンテージサーバー)、『地域と世界をつなぐSDGsの教育学』(法政大学出版局)等多数。
山脇岳志(やまわき・たけし)
スマートニュース メディア研究所 研究主幹
京都大学経営管理大学院特命教授
1964 年兵庫県出身。京都大学法学部卒。朝日新聞社に入社後、事件や地方行政担当を経て、経済部で金融や情報通信分野などの当局・業界を担当、調査報道にも従事。ワシントン特派員、論説委員などを経て、グローバルで多様な視点を重視する別刷り「GLOBE」の創刊に携わり、編集長を務めた。2013 年~17 年までアメリカ総局長。トランプ氏が当選した大統領選を取材した。編集委員としてコラム執筆などの後、2020 年に退職し、現職に就く。他に、オックスフォード大学客員研究員、ベルリン自由大学上席研究員。著書に『日本銀行の深層』(講談社文庫)、『郵政攻防』(朝日新聞社)など。共編著に『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社)など。