原始的な民族楽器から世界に1台しかないピアノまで。

楽器万華鏡

原始的な民族楽器から世界に1台しかないピアノまで。
 
古今東西の楽器の世界が堪能できる武蔵野音楽楽器博物館編「楽器万華鏡」 

 私立音楽大学として古い歴史を持ち、多くの著名音楽家を輩出する武蔵野音楽大学。そこに、5600点を超える膨大な数の楽器を所蔵する国内最大の「楽器博物館」があることをご存知だろうか。本書は、その貴重なコレクションの中から選りすぐりの183点をフルカラーで紹介した一冊だ。 

 

 「楽器」というとあなたは何を思い浮かべるだろうか。ピアノ、ヴァイオリン、トランペット、ギター、ドラム…。幼少期の習い事として、学校の部活動で、あるいは社会人になってから趣味として楽しんでいる人も多いだろう。だが本書で紹介する楽器は、私たちが日ごろから親しんでいるそうした楽器とは少し趣が異なる。 

 

 最初に登場するのは「ナポレオン帽子形ピアノ」だ。 

 「1853年、フランス皇帝ナポレオン3世の結婚祝いにイギリスのヴィクトリア女王が贈ったアップライトピアノ」とある。クルミの化粧板に覆われ、脚部には花や果物が彫られており、高級調度品としての意匠が求められたというそのきらびやかさに目を見張る。ほかにクララ・シューマンのために製作されたピアノ、ハープと一体になった「ハープピアノ」、日本の辻オルガンが製作した戦後初の国産パイプオルガン「ポジティーフオルガン」など、貴重な楽器を眺めながら鍵盤楽器の歴史をたどることができる。 

 

 続く〈弦楽器〉(第2章)では、ヴァイオリンの祖先とされた楽器から、珍しい「金属製ヴァイオリン」や「ホーンヴァイオリン」、リュートやハープなど。「管打楽器」(第3章)ではおなじみの「リコーダー」から「狩猟ホルン」、ヘンデル《水上の音楽》で有名な「セルパン」から「ミュージカル・グラス」まで、実に多彩だ。 

 

 〈民族楽器〉(第4章)では朝鮮の箏(そう)である「牙箏(アジェン)」や打楽器に始まり、中国、東南アジア、インド、中東、アフリカ、ヨーロッパ、ロシア、南米と、読みながら世界旅行の気分が味わえる。〈日本の楽器〉(第5章)では「笙(しょう)」や「篳篥(ひちりき)」など、雅楽で聞いたことのある楽器に加え、和琴(わごん)や琵琶、尺八からチャルメラまで、日本人なら知っておきたい楽器の数々が並ぶ。 

 最終章の「装置・器具類」(第6章)では、1メートルを超えるオルゴールや録音装置の始まりとされる蠟(ろう)管機、街頭で演奏される手回しピアノ「オルガニーリョ」など、「これも“楽器”なの?」と驚くかもしれない。 

 

 本書には、人間がより美しく新しい「音」を追い求め、試行錯誤してきた歴史が刻まれている。そして、楽器は「音楽を奏でる道具」にとどまらないということに思い至る。時には美術工芸品として、民族を象徴するシンボルとして、あるいは神とつながる神聖なものとして、その役割を果たしてきた。楽器の歴史は、人間の歴史そのものを反映しているのだ。 

 武蔵野音楽大学楽器博物館は現在リニューアルに向けて準備中。オープン後はぜひ本書を携えて足を運んでみてほしい。 

 

 

■目次 

はじめに 

第1章 鍵盤楽器 

第2章 弦楽器 

第3章 管打楽器 

第4章 民族楽器 

第5章 日本の楽器 

第6章 装置・器具類 

Information 

参考文献 

索引 

 

■編者プロフィール 

武蔵野音楽大学楽器博物館(むさしのおんがくだいがくがっきはくぶつかん) 

 武蔵野音楽大学では、1953年から世界各地の楽器資料を収集し、楽器陳列室で展示・保管してきたが、1967年、邦楽器研究家故水野佐平氏から貴重な邦楽器コレクションが寄贈されたのを機会に、この陳列室を拡充・改組し、本邦初の「楽器博物館」として開館した。さらに、1978年には入間キャンパスにも楽器博物館を、1993年にはパルナソス多摩に楽器展示室を開設し、現在に至っている。主な資料には、かつてナポレオン3世が所有したナポレオン帽子形ピアノ、作曲家シューマンの妻クララ・シューマンが愛用したグランドピアノ、ヴァイオリンの名器群や木管楽器の体系的コレクションなど、西洋クラシック楽器の数々の貴重な資料のほか、わが国が誇る邦楽器の名品コレクション、世界各地の民族楽器などがある。リニューアルオープンに向け、現在は休館中。 



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